SPECIAL

ゴールデンスタッフへ直撃取材ッ! Vol.6
音楽:末廣健一郎 インタビュー



――原作を読んだときの印象を教えてください。

かっこいいバトルに面白いギャグ、それにアイヌの生活であったり明治時代の北海道といった歴史に基づいた世界観など、いろんな要素が渾然一体となっていて、ものすごく読み応えがありました。知っているようで知らない歴史的事実をベースにした骨太な物語で、作品としての核が非常にしっかりしていますよね。だからこそ、盛りだくさんの要素や強烈な個性を持ったキャラクターの存在がバラバラになることなく、ちゃんと活きているんだと思います。


――音楽については、どのようなイメージを持たれましたか?

 まず気になったのが、アイヌ民族の音楽がどういうものなのか、ということです。もし使えるなら積極的に取り込みたいと思い、打ち合わせの前にひとりで北海道まで取材に行ってきました。現地ではアイヌ民族博物館にお邪魔したり、アイヌ語の講師をしている方にお話をうかがうことができたのですが、義務教育で教わった知識しかなかった自分にとっては新しい発見ばかりでしたね。なかでも強く印象に残ったのが、アイヌがとても平和を重んじる民族だということです。言葉ひとつとっても、争いに関する単語が少ないんですよ。では揉め事が起きたときにどうするのかというと、チャランケと言って村の代表者が話術で相手を説き伏せるという方法で今で言うとラップバトルのような感じでしょうか。「時には三日三晩続くこともあった」とか「より美しい言葉を使えたものが勝つ」など、、そうやって血を流さずに争いを解決する方法を根付かせているのが、とってもいい文化だと思ったんです。その精神性は音楽にも表れていて、アイヌの音楽はどれも平和的でのどかな雰囲気そのものなんです。ですから、音楽に関しては無理にアイヌ的な要素を出さなくてもいいのかな、というのが取材を通して得られた僕なりの答えでした。


――その後の打ち合わせでは、どのようなやりとりがあったのでしょうか?

 難波(日登志)監督や音響監督の明田川(仁)さんからも、土着の民族っぽさは欲しいけど、アイヌの音楽には固執しなくても大丈夫です、ということでした。なので、まずは迫力あるバトルや今風のギャグなどのエンタメ感が活きるような、かっこいい音楽を作ることを意識しました。その上で、自分なりに作品の歴史的背景をイメージして、音楽に落とし込むようにしています。『ゴールデンカムイ』は、アイヌの生活や新撰組の存在といった歴史的事実の織り交ぜ方が絶妙で、本当にこんな話があったんじゃないかと思わせてくれる力強さがありますよね。音楽で作品の奥行きを表現することで、より一層の説得力を持たせられたらと。この作品に限らず、常々そこは頑張りどころだと思っているんです。



――楽曲の方向性について、具体的なオーダーはありましたか?

 プロデューサーからは、メインテーマは金塊をめぐるスペクタクルを感じさせるもので、ウエスタンな雰囲気を盛り込んでほしいとのオーダーがありました。これがなかなか難しく、最終的なOKをいただけるまでに3つのパターンを作っています。最初に提出したのは、自分の中にあった「北海道が舞台の大河ロマン」というコンセプトに忠実な、少し大人っぽい曲だったんです。ただ、もっと遊び心が欲しいということだったので、最初に提出したものをベースに、ウエスタンな雰囲気をよりわかりやすく押し出してみようと。それで、エンニオ・モリコーネが手がけた「ドル箱三部作(クリント・イーストウッド主演の西部劇、『荒野の用心棒』『夕陽のガンマン』『続・夕陽のガンマン』のこと)」の音楽からインスピレーションをもらい、イントロに口笛を入れるなどしています。加えて、ウエスタンそのままだと作品に合わないので、その後の展開は思いっきりロックっぽくしました。コンセプトは「民族音楽ロック」ですね。


――モリコーネは末廣さんが敬愛する作曲家でもありますよね。

 もともと大好きで、今でもよく聴いています。今回はウエスタンという明確なオーダーがありましたので、それならばということで、代表的な作品からインスピレーションをもらいました。


――メインテーマ以外にも、ロックのテイストを感じさせる曲は多いのですか?

 いや、そうでもないです。OPテーマがロックになると聞いていたので、差別化を考えてロックのテイストは限定的にしました。それよりは、民族音楽とオーケストラの色合いのほうがかなり強いですね。


――アイヌの音楽には固執しないとのことでしたが、今回の劇伴にアイヌの要素はまったく入れていないのですか?

 アイヌの楽器を使った曲がいくつかあります。やはりアイヌの文化をクローズアップしたシーンには、そういう曲が合いますので。今回はアイヌの楽器でトンコリとムックリを使用したのですが、どちらも出せる音程が少なくて音だけ聴くと素朴でコミカルな印象なんです。ちょうどコメディ系でオソマをイメージした曲の発注があったので、それに使っています。あと、アイヌの音楽は楽器と声の輪唱で表現するものが多いのですが、それっぽい声を入れた曲もありますね。本当の輪唱だと作中で実際に村の人が歌っているように聴こえてしまうので、あくまでそれっぽい声に留めているのですが。



――特徴的な楽器の使い方があれば教えてください。

 楽曲の発注は戦闘系や心情系などで分かれているのですが、曲の系統にかかわらず笛を多用しています。民族楽器のティンホイッスルやケーナなど、使っている種類もいろいろです。そのせいで、笛の録音が間に合わなくて大変でした(笑)。あとは、土着の感じを出すためにパーカッションもかなり使っていますね。楽器ではないですが、声をブルガリアン・ボイスっぽく入れているのも特徴と言えるかもしれません。


――個人的にチャレンジしたことはありますか?

 3パターン作ったメインテーマの2つめは、これまであまり作ったことのないタイプの曲で、これから大きな物語が始まる予感がするようなものを目指しました。オーケストレーションの出だしでは、ハリウッド映画で中近東を舞台にした作品にかかりそうな雰囲気も狙っています。そうすることで日本でも海外のどこかでもない、多国籍でもっと広い世界観が感じられる曲にしたいと思いまして。この曲はPVの第2弾に使っていただいています。


――そのほかに、面白い趣向の曲があれば教えてください。

 3パターン作ったメインテーマのほかに、アシ(リ)パのメインテーマも作ったのですが、こちらはいわゆるケルト音楽っぽい曲にしました。アシ(リ)パは料理や狩りをするシーンが多いので、そういった日常描写にケルト音楽の雰囲気はうってつけで。加えて、女性らしさを表現できるハープを使うことで、死んだお父さんを思い出してセンチメンタルになるときの心情もカバーできるようにしています。



――アシ(リ)パ以外にも、テーマ曲のあるキャラクターはいるのですか?

 個別にオーダーがあったのは、そのほかだと白石と牛山くらいでしょうか。ただ、白石の発注はキャラクターのテーマ曲というわけではなく、コメディ系の曲のひとつが「白石」となっていたのですが(笑)。曲自体は、木管楽器や笛を使った楽しい感じにしています。牛山もテーマ曲というよりは戦闘シーン向けの曲で、キャラクターのイメージに合わせてパワーで押し切るような曲にしました。あと、新撰組をテーマにしたものを3曲ほど作っているのですが、それらはある意味で土方のテーマ曲と言えるかもしれません。


――新撰組をテーマした曲は、時代劇にかかる劇伴のようなテイストが強かったりするのですか?

 いえ、あまりザ・和風な曲にしないでほしいとのオーダーだったので、どちらかという任侠映画の劇伴っぽい雰囲気にしました。そのほうが、土方が持つゾクゾクするような迫力を表現できると思いましたので。これらの曲は、ほかと差別化するために笛の音は入れず、弦楽器を象徴的に使っています。


――大きな勢力でいうと、第七師団の鶴見中尉率いるグループも出てきますが。

 もちろん、彼らをイメージした曲もあります。原作で鶴見がピアノを弾くシーンなどを見て、わりと西洋の文化に通じている印象を受けたので、クラシック音楽のテイストを入れました。あとは、軍隊の行進曲のような規律のあるリズムにしたり、弦楽器の旋律を使って何かを企んでいるような雰囲気を出したりもしていますね。


――変態的なキャラクターが多数登場しますが、それ用の曲もあったりするのですか?

 そのものズバリ、「変態」というオーダーがありました(笑)。辺見をはじめ昇天しちゃうキャラクターが多いので、エクスタシーの瞬間を音楽で表現したような曲になっています。ただ、これも一度ではOKが出なくて、2パターン作っているんです。最初は打ち合わせでの賛美歌っぽい曲という提案をもとに、マリア様に導かれて天国に昇っていくイメージを女性の声を入れてストレートにやってみたのですが、ちょっとやりすぎたみたいで。それで、本職のオペラ歌手ではない男性にわざとオペラっぽく歌ってもらって、どこかイッちゃった感じを表現した別のバージョンを作りました。


――お話を聞いているだけでも、バリエーションに富んだ曲を多数作られたのがわかります。作ったのは全部で何曲だったんですか?

 最初は49曲の発注でしたが、追加分を加えると53曲になります。1クールのアニメとしては、かなり多いほうですね。


――いよいよ放送間近となりました。最後に、ファンに向けてメッセージをお願いします。

 監督がどんな映像に仕上げて、明田川(仁)さんがどのように音楽をつけていくのか、今から放送がとても楽しみです。いろんな歴史的背景を想像できる作品ですが、音楽的には、エンタメ作品としての魅力をちゃんとお届けすることを第一に考えて作りました。その試みがうまくいって、皆さんに作品を楽しんでいただけたら、とても嬉しいです。

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