SPECIAL

ゴールデンスタッフへ直撃取材ッ! Vol.3
美術監督:森川篤 コメント




――原作を読んだときの印象を教えてください。

不死身の杉元……と称されるごとく、ほんとに不死身だなと……。殴られても蹴られても弾丸で撃ち抜かれても拷問を受けても不死身。また、ほかの登場人物も、致命傷を受けても包帯グルグル巻きで復活してくる。そんなのを面白がってるうちに全巻読んでしまいました。 仕事柄、人物以上に背景画に目が行きますね。ホントにこれは職業病で、どう描いているのか、何を使ってるのか……そんなことが気になります。背景を飛ばさずに描いてる作品は好きになりますね。

――本作の美術表現において、とくに意識したのはどんなことですか?

「現代から見た明治時代の印象」を考えました。現代で目にする明治時代というと、建物の遺構や博物館様式で移築された展示物、あるいはモノクロの粗い写真の世界でしょうか。建物は色褪せて、木材は朽ちて、写真でなくてもまさにモノトーンに近い印象が強いです。
舞台とする明治時代では、それらは本来の色彩で、材質も新しいのだろうと思うのですが、それを反映して鮮やかな背景画にすると、「明治時代」という印象が薄れるような気がしました。
そこで、「色彩は、現代に残る建物や遺構の色に近いモノクロ的に」、「質感は、朽ちてなく新しめに」というように考えて、表現していこうかなと思っています。

――本作ならではと言える、美術表現のアプローチやテクニックがあれば教えてください。

ならでは……といいますか、美術として背景画を作らせてもらうときは、「線」を活かして描くようにしています。外形やある程度のディテールを線で描いて、色を塗っていく方法です。この線を季節や昼夜、戸外と室内など、場所に合わせて違う色にして、それぞれの雰囲気に差が出るようにしています。例えば、冬の戸外は青黒、家の中は焦げ茶、夜に消灯すると青黒というように変えています。
イメージシーンでは、紙に絵の具で描いたものを使っています。パソコンではできない「予期せぬムラや滲みや塗り重ね」を多用することができて、心象表現によってはそれがイメージに合う場合もありますので。




――時代考証、森の植生など調べることも多いと思います。とくに苦労したのはどんなところですか?

かなりの量と質の取材写真がありましたので、有り難いことに調べる苦労というのは、なかったです。
半分趣味を兼ねて「何か役に立てばいいな」と録画していた映画の何本かを、舞台設定の参考にいたしまして、ホントに役に立った! と嬉しかったです。

――アイヌの文化に根ざした土地の美術設定は、どのようにディテールを積み上げていったのですか? 個人的なリサーチや監修での指摘など、強いこだわりが活かされている部分があれば教えてください。

現存するアイヌの家の取材写真と監修の先生方からのご指示をベースに、設定画を描き、それを監修していただいて、誤っている部分を修正し、監修していただいて……のやりとりを繰り返して、最終的な舞台設定を作成しました。
家の建て方、室内の物の形や位置にも、地域差や、文化神事としての取り決めがあるようで、5~6度に渡った修正のやりとりも逐一新鮮で面白かったですが、なかでも印象に残っている「強いこだわり」というと、ござの重ね方と、イナウの位置ですね。
床にござを敷いていますが、神聖な方角の東にある方を上に重ねるという取り決めがあるそうです。イナウという、木を薄く削って房状にした祭具があるのですが、これの取り付け方ですね。最初、私は各窓の柱に縄でくくりつけて描いていたんですが、柱と茅葺壁の間にはさんでいるのが正しい。これらに関しては、実際の背景画にも反映して描いていますので、ぜひご覧ください。

――作業中、難波監督をはじめとするスタッフ間でのやりとりで印象深かったことを教えてください。

私は大阪の自宅の一室を仕事場にしておりまして、東京のスタジオにはいません。監督はじめスタッフの方々とは最初の顔合わせでお会いしたきり……後はスカイプを介して参加している打ち合わせでモニター画面を通してのやりとりが続いています。
皆さん、柔らかくて優しくて、それが画面を通しての印象ですね。仕事は非常にしやすいですね。




――本作に参加されての感想と、完成したアニメに対する期待をこめたメッセージをお願いします。

この作品をお声がけいただいたプロデューサーの方とは、10数年以上前にいくつかの作品をご一緒していたんですが、久しぶりにお電話いただいて最初のひと言が「森川さん、こんな世界観、好きでしょ」と。その通り、日本の美しい風景が描きたくて、とくに雪景色は大好きなテーマです。いまだ思ったようには描けないですが、本当に挑みがいのある作品に参加させていただいていまして、日々、楽しんでおります。
視聴者・視聴率というように、視覚と聴覚を刺激するのがTVアニメーションです。 しかし背景画を通して「雪で寒そうだな」とか「怪しい場所だな、恐いな」とか「血の匂いが漂うな」とか、そんな他の感覚を刺激したい、常々そんな背景画を描きたいなと思っています。
さて、どこまでそんな表現ができたかどうか、毎回、完成作品を観るのが、私も楽しみです。
あまり注目を浴びることのない「美術背景」の世界ですが、背景描画のスタッフさんが頑張って制作しております。背景画にもご注目いただいて、ご視聴いただきたいと思っています。

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