SPECIAL

ゴールデンスタッフへ直撃取材ッ! Vol.8
監督:難波日登志 インタビュー



――いよいよ放送が間近に迫りました。現在の心境はいかがですか?

率直なところ、ご覧になった方に「面白い!」と思ってもらえるかどうかドキドキしています。一方で、作り手として、そう思ってもらえるものが作れているという自負もあり、両者の間で揺れている感じですね(笑)。新しい作品をやるときは、いつもそうです。


――漫画を原作とする作品ですが、アニメーションならではの魅力についてお聞きしたいと思います。まず、最大の醍醐味と言える、漫画の絵を動かすことについてはいかがですか?

漫画の内容をしっかり汲み取って、それをできる限り表現しようと努めています。現時点で言えるのは、このひと言に尽きますね。監督は作品全体をトータルで見渡す立場なので、アニメーション的な表現についても、その中でいかに完成度の高いものにするかを意識しながらやっています。元々原作の情報量が多いですし、キャラクターもたくさん出てきますので、濃密なフィルムになっているのは間違いありません。激しいバトルシーンも避けては通れませんから、そこにも力を入れています。目指しているのは、単純にリアルさを追求するだけでなく、アニメ的な派手な動きも加えた迫力のある映像ですね。


――続いて、色を含めた世界観の構築についてはいかがでしょう?

美術監督の森川(篤)さんは自然物を描くのが非常に上手い方なのですが、実際に想像以上のクオリティのものが上がってきています。監督としてチェックをしながら、うわ、すごい! といつも感嘆させられてばかりです。色についても、色彩設計の茂木(孝浩)さんが、その世界観に馴染んだいい色を設定してくださっています。軍服やアイヌの衣装、それに小物類なども実物の色を踏まえた上で、作品の世界観に落とし込まれているんです。




――実作業に入る前に、北海道のロケハンも行ったそうですね。

はい。何人かのスタッフで小樽、札幌、旭川、網走など、作品に出てくる主だった舞台をひと通り取材してきました。小樽では小樽市総合博物館を見学したのですが、当時の写真が今もかなり残っているんです。かつての小樽は金融街として栄えたり、ニシン漁で“ニシン御殿”が建つぐらい経済的に潤っていたので、一般の人が普通にカメラを持っていたようでして。


――小樽は物語前半の主要な舞台ですから、当時の写真がたくさんあると美術設定の再現度も高くなりそうですね。

本当に助かりました。これは原作にも描かれていますが、当時の小樽はすでに電気が通っていて、町のあちこちに電信柱がニョキニョキと立っていたんです。そこまで電化された町はまだ珍しかったと思いますし、それを写真で確認できたのもよかったですね。そのほかにも、陸軍第七師団の資料を保存している旭川の北鎮記念館、網走の網走監獄など、いろんなところにお邪魔させていただきました。印象的だったのが、どこに行っても取材に対応してくださる方が協力的だったことです。皆さん『ゴールデンカムイ』のことをご存知で、あの作品をアニメにするんですか! どうぞ見ていってください! という感じで(笑)。この作品が北海道の方々に愛されていることを肌で感じましたし、皆さんの期待にしっかり応えねばと思わされた取材でした。


――現地をご覧になって、印象が変わった場所はありますか?

網走監獄でしょうか。普通の監獄とは造りが違うので、実際に施設の中に入ってみて初めて気づいたことがたくさんありました。





――アイヌに縁のある場所も取材されたのですか?

もちろんです。今も数多くのアイヌが暮らしている二風谷やコタン(アイヌの集落)がある白老まで足を運び、アイヌの生活についてお聞きしたり、民具を見せていただくなどしてきました。アイヌの文化は原作でもかなり詳細に描かれていますが、やはり現物を見ないとわからないこともありますので。そのときの成果をもとに、原作者の野田(サトル)先生はもちろん、制作側でも監修を立てて二重三重のチェックを受けながら作業を進めているんです。そのぶん大変ではありますが、アイヌの描写は非常に説得力にあるものになっていると思います。
――音が付くのもアニメならではの魅力です。音楽の方向性については、どのようなやりとりがあったのですか?

音楽の末廣(健一郎)さんは、音響監督の明田川(仁)さんから推薦していただきました。こちらからお願いしたのは、土着的なテイストやエスニックな雰囲気を盛り込みつつも、それだけに偏らずに派手なアクションにマッチしたノリの良さからウエスタンのテイストまで、とにかくいろんなテイストを入れていただくことです。なんと言っても、原作のキャッチコピーが「闇鍋ウェスタン」ですからね(笑)。末廣さんにはそんな高度な要求を汲んでいただき、作品のカラーを決めるような音楽を作っていただきました。アイヌがテーマの曲にはアイヌの楽器を使っていただくなど、この作品ならではのチャレンジもしていただいています。曲数も50曲以上とかなり多いので、どんな曲なのかは完成したフィルムをお楽しみあれ、といったところですね。すでに何話かダビング(アフレコで収録した声、劇伴、効果音を映像に合わせる工程)まで進んでいますが、とてもいい仕上がりになっています。


――音楽では、アイヌの要素をあまり色濃く出さない方針だったそうですね。

そうですね。あまり強くしてしまうと音楽的に偏ってしまい、この作品が持つ様々な要素に対応できないんです。なので、いろんなタイプの曲がある中で、アイヌの要素を持った曲も入っているという感じになっています。


――アフレコについてはいかがでしょうか?

キャストに選ばせていただいた方たちが、本当に体当たりで演じてくださっています。皆さんの想像を超えるような演技を前にして、このキャラクターはこんな声なんだ!と感心させられてばかりです。そのせいで、毎回の収録を楽しんじゃっているようなところもありますね(笑)。
――演技のディレクションについては、どのようなスタンスでやられているのですか?

フィルムの内容に合わせた調整は必要に応じてやりますが、基本的にはそれぞれの役者さんにお任せしています。役をお願いした段階で、このキャラクターはこういう声だよね、とイメージに合った方を選んでいますので。なかには元々原作が大好きで、この作品に出たかったという方もいるんです。そのぶん現場の熱がすごいですし、役者さんの芝居を聴くだけでも観る価値がある、そんな作品にもなっているのではないかと。


――作品を牽引するキャラクターである杉元とアシ(リ)パを、それぞれ小林(親弘)さんと白石(晴香)さんが演じています。お二人の芝居については、どのようにご覧になっていますか?

お二人には収録の前に、あなただからこの役に選ばれたのであって、自信を持ってもらって大丈夫ですよ、と伝えていたのですが、最初は演技のスタンスをどうするかで迷いもあったと思います。白石さんはアイヌ語のセリフもありますから、その面でも準備が必要だったでしょうし。でも、自然体で演じてもらえさえすれば、ちゃんと杉元とアシ(リ)パになるんですよ。今はとてもいい感じで芝居ができていて、周りの方たちも二人を盛り立ててくれています。





――原作者の野田先生とは、どういったやりとりが行われているのですか?

シナリオや設定、絵コンテなどはすべて見ていただいていますが、単なる監修だけでなくリクエストもしてくださっています。こちらとしては先生のイメージをなるべく形にしたいと思っているので、そうやって思い入れのあるシーンをもっとこうしてほしい、とコメントを添えていただけるのは大歓迎です。


――序盤の見所を可能な範囲で教えてください。

1話は物語のほんの触りですから、『ゴールデンカムイ』の魅力が全開になるのはまだまだこれからです。ただ、見所を語るとなるとちょっと難しい。普通はバトルものやギャグものというように、何かひとつ特化した要素があるものですが、すべての要素が“全部のせ”ですから。簡潔に語ろうとすると、全部観てください、になっちゃうんですよ(笑)。わかりやすい変化としては、キャラクターがどんどん増えていきます。大きくは杉元陣営、鶴見陣営、土方陣営に分かれて争う構図となるのですが、どの陣営も一筋縄ではいかないキャラクターばかりです。鶴見は頭のネジが飛んじゃっている非常にアクの強い男で、(大塚)芳忠さんの声が合わさることでその個性が倍増されています。ご覧になった方には、これぞ鶴見だ!と喜んでいただけるのではないでしょうか。一方の土方は、ギラギラしたジジイの魅力にあふれた人物で、中田(譲治)さんの声も非常にハマっています。そういえば、中田さんがご自身のツイッターで土方役での出演を告知されたとき、リツイートの数がすごかったんですよね。あの反響を見て、人選に間違いはなかったと自信を深めました。1話から今後のネタ振りになるような描写も入れていますので、細かなセリフや画面の隅々にまで気を配って観ていただければと思います。


――最後に、ファンに向けてメッセージをお願いします。

僕らスタッフが料理人だとしたら、ご覧になる皆さんは料理を食べるお客さんです。素材の良さは保証されているので、出来上がったこの“闇鍋”をまずはひと口でも味わってみてください。めちゃくちゃ美味しいですから。

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