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このキャラクター、要注目につきッ!!
キャストインタビューVol.6
[二瓶鉄造役]大塚明夫

――原作を読まれたときの感想を教えてください。

 元々原作のファンで、自分で単行本を全部買って読んでいたんですよ。ファンの方に勧めてもらったのがきっかけなんですけど、実際に読んでみたら、なるほどこれは面白いな、と。群像劇であるにも関わらず、それぞれのキャラクターがものすごく立っているのが魅力ですよね。アニメになるならぜひ出たいな、と前々から思っていたんですよ。

――では、本作への出演は願ったり叶ったりだったわけですね。

 ええ。ただ、最初にアニメの話を聞いたときに、オーディションはもう終わりました、と言われてしまって(笑)。それで残念に思っていたところに、二瓶役の話をもらったという形です。

――いち原作ファンとして、好きなキャラクターはいますか?

 どのキャラクターも好きだし、演じてみたかったですね。難しいと思っていたのは鶴見中尉なんですけど、演じるのが(大塚)芳忠さんと聞いて納得しました。鶴見中尉ってどこまでが正気でどこからがそうでないかの線引きだったり、相手役へのアプローチの仕方が難しいと思うので。その他のキャラクターも土方とか牛山とか、かっこよくてやりたい役ばかりで、ワクワクしながら原作を読んでました。でも、二瓶役で呼んでいただけたのは嬉しかったです。

――二瓶というキャラクターの印象はどうでしたか?

 あの人はすごくて、アイヌの金塊にはなんの興味もないんですよ。山で生きて山で死にたいというだけの人で、網走監獄で刺青を入れて脱獄したのも、そのためでしかないんですね。つまり、二瓶が持っている世界っていうのは、彼にとっては作品世界に比肩しうるほど大きなものなんです。だから、物語の中に組み込まれてしまってはダメだと思って。彼には彼の世界があって、たまさか金塊の争奪戦と運命がかすっただけでしかない。演じる上でも自分の世界をちゃんと持っていないと、キャラクターに負けてしまう気がしました。そういった意味では、やりがいがありました。わずか2話分ぐらいの出番でしたけど、アニメの全話に負けないくらいの二瓶鉄造物語を作り上げてやろうと思って、燃えましたね。
――アフレコ現場に入る前から、芝居についてプランを立てるタイプですか?

 元々原作を読んでいたからできたことで、普段はそこまで突っ込んだアプローチはしないです。なので、原作ファンで良かったな、と(笑)。原作のファンだからといってプレッシャーもまったくなかったですし、とにかく楽しさばかりでした。

――突き抜けた部分があるキャラクターでありながら、ちゃんと生々しい人間に感じられるところがありますよね。

 明治という時代がいいんじゃないかな。今みたいにSNSで何か言うとすぐ炎上する時代と違って、当時は細かなルールもなく、もっと生きることだけに精一杯だったでしょうしね。現代人が気にするような常識を歯牙にもかけない男たちがゴロゴロいるわけで、それがキャラクターの存在感に繋がっている気がします。白石にしたって、作品の中ではいじられ役で小物扱いされちゃってますけど、今の世の中にいたとしたらすごいダイナミックな男でしょうしね(笑)。
――現場でのやり取りで印象に残っていることはありますか?

 二瓶は谷垣との絡みが非常に多かったんですけど、ストーリーの見方としては、谷垣にとっての成長物語という側面もあるわけです。一方の二瓶はすでに成長しきっているので、その埒外にいる人物なんですね。だから、谷垣が精一杯に一人前の顔をしても、二瓶の手のひらの上で転がされるようなところがあって。谷垣役の細谷(佳正)くんも、いらぬ小芝居をせずにまっすぐに来てくれて、非常にやりやすかったです。

――二瓶の魅力や存在感を出すために重要だと感じたセリフはありますか?

 むしろセリフで人となりをあまり表現しないように心がけていました。二瓶はそういうのが、さほど得意じゃない人のような気がしましたので。イメージとしては、言葉の塊をボロっとその場に放り出すような感じです。とはいえ、意外とおしゃべりな人ですし、アニメを観た人からは、十分表現してるよ、と言われるかもしれませんが(笑)。

――では、いち原作ファンとして好きなセリフはありますか?

 「一発だから腹が据わるのだ」ですかね。二瓶の生き様をよく表している言葉だと思いますので。実は収録のときにもこだわって、台本では「一発で決めねば殺される」となっていたのを、監督にお願いしてこのセリフに変えてもらったんですよ。最初のセリフもちゃんと原作にあるものなんですけど、僕としては「一発だから腹が据わるのだ」のほうを残したくて。二瓶にとって獲物に殺されることはさしたる問題ではなく、腹が据わって上手く命中することのほうが大事ですから。  あと、「やっぱり女は恐ろしい」というセリフも印象的でした。野放図な無法者なんだけど、それでも女は怖いと思っているところが面白いじゃないですか。たしかにカミさんにとっちゃ、男の勝負なんて関係ないよな、と納得しちゃいますよね(笑)。二瓶の諧謔性のようなものがにじみ出ているセリフだと思うし、こういう一面があるところもひとつの魅力のような気がします。

――二瓶のセリフと言えば、「勃起」も強烈な印象を残しました。

 あれも別に変態性欲の表れということじゃなく、生きることに対する大らかさが出ている感じですよね。現代社会で連呼していたら、すぐにヘンな人だと思われちゃうでしょうけど(笑)。「心が躍る」みたいなことを、彼なりのヘンなボキャブラリーで表現するとああなるってことなんでしょうね。

――アフレコ現場の雰囲気はいかがでしたか?

 楽しかったですよ。息子みたいな年齢の子たちと絡むのも面白いですけど、一方でベテランの人と絡むのはまた違った面白さが明らかにあって。長く生き残るにはなかなか骨の折れるこの業界で、ベテランの人は何かしら持っているからこそ生き残っているわけです。それに、若い頃は求められた役割からはみ出さないことに意識が向かいがちなのに対して、ベテランになると、どれだけはみ出せるかが勝負みたいなところがあったりしてね(笑)。とくにこういう作品の場合、演じる人がキャラクターの存在に負けちゃうとつまらなくなってしまうので、キャラクターからはみ出すくらい自己主張したほうが良かったりするんですよ。それができる人たちが絡むことで相乗効果が生まれて、ドラマをさらにもり立てるようなところもあったと思います。最近はそういう意識を持った若い人もけっこう出てきているので、業界的にも面白くなってきていますね。

――アニメでの二瓶の活躍を、どのようにご覧になりましたか?

 二瓶役で出られたのは嬉しいんですけど、すぐに死んじゃうのがね(笑)。欲を言えば、トータルであと15分欲しかったかな。ロングショットからジワーッとカメラが二瓶に寄っていくような沈黙を活かしたシーンがもう少しあると、大自然の中で勝負をしている緊張感がより一層出たんじゃないかと思って。とはいえ、30分のアニメでそれをやるとテンポが出なくなるし、決まった尺の中で描かなきゃいけない内容もありますから、なかなか難しい面があるとは思うんですけども。それと、数話しか登場しないのに、オープニングにちゃんと出ていたのが嬉しかったですね。

――本作への出演を振り返って、メッセージをお願いします。

 普通は物語に沿って芝居をしていくものなんですけど、二瓶はそれがまったく当てはまらない存在でした。作品の大きなストーリーに背を向けていながらも、ちゃんと存在感のあるキャラクターをやるのは本当に楽しかったですね。物語に溶け込まない存在だし、好きにやっていいかな? みたいな(笑)。演じるのがとても楽しく、楽しませていただきありがとうございました、という気持ちです。あとは、アニメでは描き切れなかった二瓶鉄造物語をまたいつかできたらいいな、と心から願っています(笑)。10月から始まる第二期では、スタッフとキャストの皆さんに原作のダイナミックな魅力をさらに盛り上げてもらって、現代の男たちにまた檄を飛ばしてほしいですね。

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